2021/02/25 15:48
”革”という素材はエコなのか?
ということについて、ちゃんと記事にしたことが無かった気がするので、現時点での自分の考えを書いておこうかと思います。
そもそも「エコ」が今では産業になってしまい、ただ商品を売るための謳い文句のような気がして、
「エコ」という概念自体にも胡散臭さを感じる今日このごろなんですが。(ひねくれている)
革は食肉文化の副産物
基本的に「革」は人間が食べる動物の「皮」が流通し利用されます。
逆に皮が利用されない、ということは廃棄されるということです。
なので、人が動物を食べる以上、皮は利用させてもらったほうが良いんじゃないかと思います。
できるだけ余すところなく使い切ることを含めて、”命をいただく”ということだと思います。
肉を食べないベジタリアンが革製品を嫌う、というのは納得できます。
でも肉は食べるけど革製品は持たない、では結果、皮が余って廃棄しなければならなくなります。
あと家畜の飼育の環境が酷いんじゃないかという話もありますが、それは解決すべき問題だと思います。
うちはなるべく地元で自然に近い環境で育った動物のお肉を買うようにしています。
食肉以外の革もある
革を取るためだけに動物を殺すということはやはり道徳的な問題がありますし、畜産業者からしても非常に効率が悪いので
ほとんどありませんが、なかにはエキゾチックレザーと呼ばれる、ワニやヘビやダチョウなど、皮と取るために殺されている動物も少数います。これらはワシントン条約によって制限されているので、流通量が少なく、高価です。
また馬の革で”ハラコ”というのがありますが、これは文字通り腹の子=胎児の皮のことです。
毛並みが柔くて美しく、希少価値が非常に高いものですが、これはさすがに残酷なので反対している人が多いです。
(実際に世に出回っているハラコは偽物が多いようです。)
同様にミンクやキツネなど、毛皮を取るために殺される動物もいますがこれも反対運動がおきています。
*当工房では、これらの革は一切使っておりおません。
あと個人的には、僕は牛肉はほとんど食べません、味が好みでないのもありますが、
自分が戦って勝てる相手を食べるほうが動物として自然なような気がするからです。
自分の体力で勝てるのは豚がギリかなと思っています(勝てないかも)
牛は自分よりも大きくて強いので、日常的に食べるのは不自然な気がします。
でも仕事としてレザークラフトをする以上、強度や厚みや表現の幅を考えると、やはり牛革なしでは難しいので、
牛肉を食べるのは世の中のマッチョの方々にお任せします!
ヴィレッジレザーについて
「ヴィレッジレザーはありますか?」と当工房でもたまーに聞かれることがあります。
ヴィレッジレザーとは近年フェアトレードショップなどで扱われている、インド、ネパールなどの山村で自然死した水牛の皮を利用したもののようです。
インドってそもそも宗教的に牛は殺さないんじゃないの?と思ったら、水牛はまた違って神聖な牛には分類されないので、食肉になることもあるようです。
殺生していない=エコになるのかどうかは分かりませんが、肉を食べない人が革製品を持ちたい場合は、主義と合致していると思います。
一般的に流通している革ではないので、当工房では取り扱っていません。
ヴィーガンレザーについて
最近ちょくちょくに耳にします、ヴィーガンレザー。
植物の繊維を原料にウレタン樹脂などでコーティングして、レザー風につくった「エコ素材」のようです。
よく分かりませんが、植物は植物のまま、綿や麻や竹として使った方が自然で美しいと思いますし、
わざわざレザーに近づける必要があるのでしょうか。
生産するのにも、石油なりのエネルギーを使うでしょうし、樹脂でコーティングしちゃってるから土に帰らないし、
本当に「エコ素材」なのかは疑問なんですが、なんせ実物を見たこともないし、よく分からないというのが正直なところです。
ジビエレザーについて
ジビエレザーという言葉があるのかどうか分かりません、これから出てくるかもしれません。
要するに家畜ではなく、狩猟によって獲れた野生の動物の皮ですね。
近年、イノシシやシカ、クマなどが、人里に下りてきて農作物を荒らしたり、怪我人が出たりと、年々深刻な問題になっています。
これらの動物は「害獣」と呼ばれ、駆逐される数も増えています。
人に山を荒らされ、食べ物がなくなって里に下りてきたら害獣といわれ撃ち殺される。動物からしたらこんな理不尽なことはないんですが、これが現状です。
殺すのであれば、せめて肉や皮は廃棄するのではなく有効利用すべきだ、との考えから、ジビエ料理やジビエレザーも全国的に増えてきています。
僕もいくつか関わらせてもらったことがありますが、廃棄するような皮なので安く手に入るのか、というとそうでもなく、
”鞣し”の工程を業者に出さなくはならないので、普通の革を仕入れるのと同じような金額になります。
それに、狩猟する人や、皮を剥いで肉を削ぎ業者に配送する人の手間などを考えると、コスト的にかなり難しいな、という印象です。
しっかりした流通経路を確保しないと、継続は難しいかと思います。
市や自治体などに協力してもらってやるほうがいいかもしれません。
鞣し(なめし)について
動物の「皮」を、製品として使える「革」へ生まれ変わらせるのが鞣し(なめし)という非常に重要な技術です。
「皮」のままでは水分があると腐敗したり、逆に水分が抜けるとカチカチに硬くなってしまいます。
そこで皮のコラーゲン繊維になめし剤を結合させることで、劣化を抑え、柔らかさや強度を持った素材「革」に変化させることができます。
この鞣しの技術ですが、現在大きく分けて二通りのやり方があります。
一つ目は、昔ながらの植物の渋に漬け込む「植物性タンニン鞣し」
鞣すのに数ヶ月かかるなど、とても手間のかかる鞣し方です。
はじめは堅牢ですが、使い込むほどに柔らかくなります。
日光や油分や摩擦によって色艶が変化する、いわゆる「経年変化」が特徴です。
一般的に使い込んで「味の出る」革というのはこちらの革です。
逆に展示しているだけでも日焼けしてしまうようなデリケートな革なので、在庫をたくさん持って販売するのは難しいですね。
そしてもう一つは化学薬品、塩基性硫酸クロムをつかった「クロム鞣し」
短期間で安価に鞣すことができます。
柔軟性、耐久性、軽さ、発色の良さが特徴で、タンニン鞣し革のような経年変化はあまりありません。
現在大量生産でつくられているのはほとんどがクロム鞣しです。
クロムは重金属ですので、工場排水による環境汚染の問題があります。(最近は改善されてきているようですが。)
また、金属アレルギー反応が出ることがあるようです。
*当工房では、植物性タンニン鞣しのみ使用しています。
さらに、鞣した後の表面の仕上げなどもいろいろありますが、キリがないので、この辺にしときます。
まとめ
いろいろ書きましたが、なにが正しい、とか、こうあるべきだ、とか言うつもりはありません。
みなさん自分の好きなものを大事に使ってください。
ただ僕が15年以上革を触ってきて、やはり美しいと思うのは「食肉の副産物である動物」を「植物性タンニンで鞣した」革であり、
結果的に最も環境負荷の少ない革だと思います。
結局大事なのは、動植物への感謝や、美意識なんじゃないかなあと思いますし、そこを共感してくれる人に、グリグリの製品をつかってもらえれば嬉しいです。